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徳島地方裁判所 昭和39年(む)424号 判決

被告人 増田宗夫

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する殺人未遂・銃砲刀剣類等所持取締法違反被告事件について、昭和三九年一一月七日、徳島地方裁判所裁判官磯部有宏が為した保釈許可決定に対し、検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

本件準抗告申立の趣旨および理由は別紙準抗告申立書記載のとおりである。

よつて判断するに、被告人の殺人未遂の所為は、刑事訴訟法第八九条第一号に該当するものであるから、本件がいわゆる権利保釈の許される場合でないことは明らかである。検察官はさらに、本件については被告人が罪証を隠滅するおそれがあると主張するが、一件記録によつても、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとは認められない。

そこで、裁判官がその裁量により被告人の保釈を許した原決定が相当であるか否かについて判断するに、一件記録によれば、被告人が本件殺人未遂の所為に出でた動機は計画的なものではなく、むしろ偶発的でかつ単純なものであつて特別の遺恨があるとは認められないこと、被告人の所為は極めて危険性を伴い場合によつては重大な結果を生来するおそれがあつたけれども、結果的には被害の程度も軽く済んでいること、被告人にはこれと同種の前科がなく、またこれまで暴力行為や傷害行為の前歴がないこと、本件犯行直後、捜査官憲に自ら出頭する等その他改悛の情が認められること、被害者からは被告人とは同村の間柄であるが故に特に厳罰を望むものではない旨の減刑歎願書が提出されていること、被告人は昭和三六年以来漁船員として働き家庭にも妻子があつてその生活条件が定まつていること等が認められ、以上のような事実に徴すれば、被告人に対し、金八万円の保証金によつて保釈を許した原決定が必ずしも不当であるとは云い難い。

よつて、本件準抗告の申立は理由がないからこれを棄却することとし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤和男 野口喜蔵 武内大佳)

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